最近よくお問い合わせをいただくんですよ。ヒラノケースについては。
どんなケースなのか、どんな風に作ってるのか、特注とか可能なの?って。
なのでこのページの改修にあわせて、いっそそこらへんのことをまとめて
文章と写真を掲載しちゃおうか!
ついでに制作者本人にもコメントもらって載っけちゃおう(「」でくくった部分)となりまして。
やり始めたらこれが結構大変でしたが、まあ購入を検討されている方もそうでない方も、
暇つぶしにちょいとお付き合いいただければ有り難いです。
まずはヒラノケースってなにか?
はい。天然皮革を使用したハンドメイドのカメラケースです。
基本的な形状は共通で、頑強な革製ボディケースと同じ革で作られたストラップから構成されてます。
いわゆるスナップホルダーってやつですね。
気兼ねなく肩から下げて歩けるので、お気に入りのカメラを大切に保護しつつ、いつでも持ち歩くのにぴったりな作りですよ。
素材は勿論天然皮革から作られ、黒と茶の2色から選べます。
いまどき一つ一つを手作りで、お客さんの注文ごとに作ってます。
鮮度抜群。大量生産品に比べたら活け作りみたいなもんですねえ。
最近寿司食べてないなあ。回転しないやつ。この世の何処かにあるという。どうしたら行けるのだろう。
詳しい握り方もとい作り方なんかは後述するのでそっちも読んでくださいね。
どこで作ってるかっていうと、東京は銀座からほど近い京橋にあるカメラヒラノの店舗。
2009年現在で創業以来32周年を迎えます。
ここに併設された工房にて、平野嘉寿廣氏が今日も元気に作り続けています。
ヒラノケースは全てハンドメイドの為、ご注文を頂いてから順次生産を開始する完全受注生産です。
とれたてのぴちぴちです。無駄に作りすぎないのでエコですね。
作り置きではなく、注文主であるお客様の為に作られるので、現在のところご注文頂いてから大凡10日前後での
完成・納品てな寸法です。。とはいってもケース1個の完成までに何日も掛かるってわけではなく、
非常に多数のご注文を頂いているため、順番待ちとさせていただいているという訳です。
※ご注文の混雑状況によって若干の前後があります。予めご了承下さい。
平野氏によると
「既に型のある定番商品ならば皮の裁断から縫製、完成まで約2時間。一日に4〜5個くらい」という早業ですが、
全てがこれほどの早さで完成する訳じゃないとか。
「完全新規の特注品の場合はカメラ本体を元に採寸、型紙作成、型紙仮組、型紙修正、型紙完成という前段階が入り、
なおかつ組み上げる際にも細かな調整なども必要となる為非常に時間が掛かってしまう。」
「形状の特殊なものなどを一から作り上げる場合は、一日がかりのときもある」
とのことですが、極端に形の複雑なものや表面積の大きい(材料の革をたくさん使う)ものでもない限り、
価格は定番品と大差ないんですよ。
こりゃまた一体どういう訳か?訊いてみると答えはシンプル。制作者本人が「価格をあまり高くしたくない」から。
あーもう格好いいなあ。
そもそもの始まりは10年ほど前のこと。
当時は空前のカメラブームでクラシックカメラに関するものは引く手あまたの状況でした。
平野氏はご自身がカメラ好きのカメラ店店主。趣味が高じて、自分のカメラ用にと手作りしたカメラケースを友人に
披露したのがきっかけでした。
このケースの出来映えが仲間内で話題となって、少しづつ噂が広まりいつしかカメラヒラノの人気商品へと育っていきます。
初めのうちはライカのM型・バルナックが中心だったのが
次第にニコンのS型用、ローライ35などのケース
も注文されるようになります。
実物が手元に無いカメラのケースを注文されることもあって、
そんなときには「お客さんのカメラを預かって直接採寸し、そのカメラのために手作りする」という荒技でクリアしたそうです。
現在では型紙の数も増えて、お客さまのカメラから直接採寸することも少なくなってきたようですが、
珍しいカメラ用のケースの特注が途絶えることはまだまだ無いようです。
最近の特注品の中でも特に珍しいものでは、ホースマン3Dステレオカメラのケースというものまであったとか。
FUJIのパノラマカメラTX−2ベースの、二つ目のあいつです。いやはや。世の中好きなひとが多いもんです。
あなたが所有する珍品カメラのケースも制作可能かも知れませんねえ。
気になってきた方、まずはお問い合わせを。訊くだけならただなんですから。恥ずかしがってちゃあいけません。
今日ではクラシックカメラブームも去り、関連市場の規模も縮小の一途を辿っているのが現状です。寂しいもんです。
一方ヒラノケースはどうかと申しますと、なんだか微妙に需要があるらしくじわじわ注文が増加しっぱなし。
受注数は減るどころか鰻登りの勢いです。2008年度には過去最高の出荷数を記録して、
現在も生産上限いっぱいを作り続けています。
有り難いことです。ほんとに。
面白いのは、かつては生産数の殆どをライカ等銀塩カメラ用のものが占めていたのが、近年大きな変化が見られるとか。
その代表がコンパクトデジカメ用ケースの特注が増えてきた事。
最初のデジカメ用ケースのオーダーはシグマDPー1用の特注だったとか。
「数年前にはデジカメ用ケースの注文がくるなんて考えてもみなかった」ようですが、
現在では特注のオーダーが入るのを待つばかりじゃなく、最新機種の発売に合わせて新型ケースの開発も積極的に
行っているようです。
最近ではLUMIX G1用や、GRデジタル用なんかも人気が高く、注文が途切れることがありません。
思うにデジカメは外観やオプションなんかで手を加えられるところが少ないですから、
他人とちょっと違うものを手にしたい、自分のデジカメをほんのちょっとお洒落にしたい、なんて方に人気があるようです。
一方で、近年増えたコンパクトデジタルカメラ用ケース開発には独特の苦労があるとか。
フィルムカメラと異なり、背面部に液晶モニターや操作部が集中するデジカメでは、
ケース素材でカメラの全面を覆うことが出来ない。
このため新型が出るとまずどのようにボディを覆えるか、操作部を阻害せずに如何に
カバーを取り付けるか、という採寸や型紙の作成以前の「構想段階」に
時間が費やされるのだそうです。
さらに寸法や形状からギリギリのすり合わせが必要になる場合には、
なんとケース作成時のマッチング用に実物大のモックアップまで作ってしまうというから驚きです。
なお、残念なことにデジタル一眼レフに多い3次曲面でグリップが構成されるボディについては受注不可能だそうです。
採寸に基づき型紙が完成した後も只組み上げるのではなく、
菱切りと呼ばれる縫製用の穴あけ作業から、実際の縫製作業に至るまで、一針ずつ丁寧に縫いあげられます。
針を通す場所によっては、あける穴の角度まで丁寧に調整されているくらい。
作業の様子を側で見学させてもらってたんですが、ほんとに変えてるんですよ。
90度で差し込んでる場所とか、45度で差し込んでる場所とか。
革部品同士のマッチングの為だったり、強度保持の為だったり。
見えない部分まで徹底的にこだわって作り込まれているかお分かりいただけるかと思います。
このためヒラノケースは大量生産には向かず、どれだけ頑張ってもひと月に100個前後が限界です。
他方で、大量生産では対応できないような特殊な物でもとことんこだわり、微調整をしながら組み上げることが
できるという利点もあります。
他社では難しすぎて受注出来なかったケース制作を紹介される事もあったそうです。
ほかにも各部には様々な工夫・配慮がなされています。
一例としては底面のコバ処理の際には縫い目・糸の補強をかねてコバインキが縫い目にも塗り込まれる。
ケース内部の傷よけも機種により細かに形状や配置を変えて対応しています。
素材の面でもこんなこだわりが。
天然皮革には、合成皮革にはない独特の風合いがあり、そこが魅力なんですが、中には必ずしも歓迎されないものも。
その一つが「血スジ」と呼ばれる線状の模様。これは表層血管の跡。
皺のようにも見えるため捨てられてしまうこともあるんですが、ヒラノケースではあえてこの部分も使用してます。
「合成皮革のように全く均一ではつまらない。天然皮革らしい自然で変化のある風合いを楽しんでほしい」
目に見えない部分や機能に関することだけでなく、ケースとして形作られたものに対する制作者のこだわりなんですねえ。
これほどまでにこだわって作り上げられたヒラノケースですから、当然その堅牢さに於いても定評があります。
過去十年間において糸のほつれや革の破損によるトラブルは皆無だということからも、その製品、製法への自信がうかがえます。
なお、万が一糸がほつれてしまった場合には修理も受け付けているというので安心。
「うち(カメラヒラノの店舗・オンラインショップ)でお求めいただいたヒラノケースでしたら修理させていただきます。
まずはご相談下さい」
ちなみに昔のライカ純正革ケースを修理できないかなんて問い合わせも多いようですが、残念ながら出来ないそうです。
何十年も経っている革ケースを補修のため縫い直していくと、傷んだ革が新たに通した糸にまけて破れてしまうのだとか。
さてそろそろ佳境にさしかかって参りました。後ちょっとなんでこのままついて来て下さいね。
みなさん気になるオプションや特注なんかについてです。
現在のヒラノケースには、実は幾つかオプションが存在するんですよ。なんか裏メニューみたいですねえ。
まずストラップは「10センチ単位、上限で140センチまでの延長」が可能。購入者が自分の体格や用途に合わせて選択出来ます。
着るものにあわせて斜め掛けしたい!なんて欲ばりさんもどんとこいです。
またデジカメ用ケースでは背面の液晶画面を覆う「背面カバー付き」を選択する
ことも出来ちゃいます。
液晶画面は見たいけど、普段は保護しときたいなんてわがままさんもバッチこいです。
あと地味なとこではカメラとボディケースを固定する底ネジは2種類から選択可能。
ほんとかゆいとこに手が届くといいますか…。
それ以外には全体を覆う為のフロントカバーなんかは…はたして…。
「フロントカバー?実はたまに作ってるよ。特注でね。」
そういって氏が取り出したのはローライ35用・ライカCL用・ニコン35Ti用等。
戦前のカメラケースみたいで、えらくかっこいいんですよ。これが。
ローライ35用なんてわざとレンズ部を突出させて、沈胴させないでもケースに収められる様になってますねえ。
「デジカメ用のフロントカバー付きのケースなんかも面白いかもね。今度作ってみようか」
今回テストケースとして、上記のフロントカバー付き試作品の写真を掲載していますんで。じっくりご覧下さいませ。
最後まで読んで頂きまして、本当に有り難うございました。
今後も新製品情報や面白い特注品なんかあったら画像も追加でアップしていきますんで。
どうぞお楽しみに。
最後に今後の抱負を…
「これからはさらに新しい物にも挑戦したい。
勿論今までのものも細かな部分の仕上げを、より丁寧にしたい。
ただ、もしかしたら近い内に価格を少し上げさせてもらうかも知れない。
そうなっても、納得してもらえるように、
必ずもう一手間かけた良い物を作っていきたいね。」